言葉の煙霞

言葉は、無限の可能性を秘めている。

☆002.夫が育児に参加すること。②

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 鍋の中に、昆布が浮いている。コンロは弱火だ。小さな泡がふつふつと沸いてきたところで、真一は昆布を鍋からすくい上げる。

 上品な香りがキッチンに漂う。真一は大きく息を吸い込み、そして吐き出した。

 みりんや料理酒、醤油で味付けをする。これでつゆは完成。

 この中に、大量のネギを投入する。包丁で細かくみじん切りしたネギだ。

 そして、しばらくネギを煮込んだあと、冷凍庫から取り出したもの。それは――

 

 うどん。

 

 うどんは育児のメインディッシュである。

 この食べ物を発明した人は、神だ。うまくて、早くて、安い。

 真一はネギがたくさん入ったつゆに麺を投入しながら、こう思った。

「お父さん、今日のお昼ご飯、なーにー?」息子の太陽(3才)が、キッチンにやってきた。

「うどんだよ」

「やったー。太陽、うどん大好き。ネギ、入れないでね」

 いや、食べてくれ。

 真一は心の中で太陽にツッコミを入れながら、火を止めた。

 基本的に太陽は、野菜と果物を食べない。食べようともしない。卵もワカメも鶏肉も、うどんに入れるトッピング系すら、何一つ食べてくれない。息子の体は、納豆とツナで構成されていると言っても過言ではない。

 でも、食べることが嫌になったら元も子もないので、好き嫌いについては、

「そのうちなんとかなるでしょ……」

 というのが我が家(妻・結子)の方針である。

 かと言って、余りにも食べないのは、さすがに問題だ。そう思って真一は、なんとか野菜の栄養素だけでも摂取してもらおうと、知恵を絞る。

 大量のネギを包丁で細かく、うどんに絡んでも分からないほど小さく刻む。これをうどんのスープで煮る。こうすることで、ネギの栄養素を少しでも摂取してもらうのだ。

「ネギ、やだー」

 たまにネギの緑色の部分を見つけてフォークでつついている太陽だが、大半は気づかずに食べてくれる。さすがにうどんのスープを大量に飲ませることはできないので、苦労の割には、あまり栄養が取れていない気がする。

「お父さーん。YouTube見ていい?」

 先に昼食を終えた陽乃(はるの)(6才)の声に、真一は顔を上げた。娘は既にテレビをつけている。

「時間決めて見てね」真一は時計を見ながら陽乃に言う。「今、時計の長い針が6だから?」

「えっと、一時間だから、また6になるまで」

 最近、時計を読むことが出来るようになった陽乃が答える。平日の結子による教育が行き届いている。さすがである。

「太陽も見るー!」

「いいよ、順番に見よう」

 子供のやり取りを見て、真一は微笑む。この間は、子供の相手をしなくて済む。しかし、家事はまだまだ山積みだ。

 昼食の洗い物を済ませ、お風呂掃除をして、夕食のための米を研ぐ。

「次、太陽が見るー!」

「いいよ、陽乃が選んであげる」

「トーマスのゆーちゅーぶ!」

 真一は時計を見る。約束の時間まで残り10分程度だ。このまま何も言わなければ、子供たちはずっとYouTubeを見ているのだろうな。真一はふと考える。そうすれば、自分の時間も取れるのにな。

 いやいや、と真一は頭を振る。

 それは育児とは言わない。

 真一は読書をしたい気持ちを抑えながら、

「そうだ、陽乃。YouTube見終わったら、お父さんと日記を書こう。今日から毎週、土曜日はお父さんと日記を書く日にしよう」

 と陽乃に提案した。

「ニッキってなーに?」

「太陽も書くー」

「太陽はまだ早いから、この前買った、平仮名ドリルやってて」

「えー、うん。わかったよー」

「よし。じゃあ、百円ショップに行って、日記帳を買おう」

「うん!」

 陽乃が元気よく返事をする。

 こうして、ワンオペ育児の初日が過ぎていく。

 世の中の母親たちは、子供たちと毎日、どのように接しているのだろうか。そんな風に思いながら、買い物へ行く準備をする真一だった。

 

 

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#休日の子供たちとの過ごし方