男性の育児休業が、巷で盛んになっている。
ヤフーニュースを見ながら、高梨真一は思った。
コメントを見ると、「付け焼刃で休んでも意味がない。目の前の仕事はいいのか」「男性が育児休業を取ることで、少子化の解決になる」という意見で、真っ二つに別れている。
なぜ、夫が育児に参加する必要があるのか。その問題について、これまで真一はあまり深く考えたことがなかった。
「じゃあ、行ってくる」妻の結子の声で、真一はパソコンから顔を上げる。結子はコートを羽織り、車のカギを手の指にぶら下げていた。
「行ってらっしゃい」と声を掛ける。それと同時に、大きな高い2つの声が家中に響き渡る。
「お母さん、お仕事行ってらっしゃーい!」
「頑張ってねー!」
長女の陽乃(はるの)と長男の太陽(たいよう)だ。それぞれ歳は6才と3才。
今日は土曜日。真一は仕事が休みだ。対して結子は、今週から土日を中心に、ほぼほぼフルタイムでアルバイトを始めるのだった。
「明日も仕事だよね?」と、玄関でブーツを履いている結子の背中に尋ねた。真一は、まだ現実を受け止めきれない様子だった。
「そうだね。じゃ。あとはよろしく」結子は少し急いだ様子で玄関のドアを開け、エンジンが温まった車に乗り込んだ。
車が出発するのを確認すると、真一は居間に戻り、時計を見た。午前8時30分。
さて。何からやるか。
居間では太陽が早速、おもちゃ箱をひっくり返している。大好きな機関車トーマスのプラレールだ。
洗面所に向かうと、今にも中身が零れ落ちそうな洗濯カゴが目に入った。妻と子供二人分のパジャマ、幼稚園で汚した服、バスタオル、自分のワイシャツなどが詰まっている。
キッチンは昨日の夜、自分が仕事終から帰ってから食べた夕ご飯の食器と、朝ご飯の洗い物が無造作に積み重なっている。
食卓テーブルには、朝食の残骸。パンの残りかす。
冷蔵庫を空ける。中身はほとんど空だ。今日の昼は、何食べようか。買い物にも行かなくては。
――やることはいっぱいだ。
「ねぇ、ウンチ出た」トーマスのおもちゃを片手に持った太陽が、真一の手を引っ張っている。
「お父さーん! 陽乃の部屋に来てー! この漢字、わからなーい!」二階から陽乃の叫び声が聞こえる。
なぜ、夫が育児に参加する必要があるのか。
とりあえず、これだけは言える。
育児というのは、父と母が行う、子供に対する未来のための投資であり、労働だ。故に、育児休業は休みではない。育児という労働を行うのだ。
週末限りのワンオペ家事と育児が、今、始まる。
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#「なぜ夫が育児に参加するのか」