言葉の煙霞

言葉は、無限の可能性を秘めている。

理系コンストラクション

理系コンストラクション【第3号 不屈の座屈②】

2.自分の証明 仄暗い講義室の片隅に、異国の街並みが表示される。森と湖の国フィンランド。ヘルシンキ駅前の様子だ。近未来的なシルエットの路面電車が映し出されている。緑色と黄色のツートーンカラー。首都ヘルシンキの伝統の色。 フィンランドはスカン…

理系コンストラクション【第3号 不屈の座屈①】

1.非効率の誰かさん 効率なんて、大嫌い。 例えば、早く家へ帰りたくて時間を短縮して掃除したとしても、友達からの不毛な会話で帰れなくなった時。夜遅くまで脇目もふらず課題を真面目に仕上げても、不真面目なクラスメートにノートの中身を見せなきゃい…

理系コンストラクション【第2号 非破壊レーザーに死角なし⑤】

5.彼女の世界に死角なし 液晶画面に表示された波形は、赤や黄、青の色彩がくっきりと映えていて、うっとりするほどに綺麗だった。 キリリリ、と河原の方から不思議な鳴き声が聞こえた。なんて鳥だろう。頭にそんな考えがよぎったけど、私は新しいレーダー…

理系コンストラクション【第2号 非破壊レーザーに死角なし④】

4.見えない循環に熱意あり 久々にやってきた岩川(いわかわ)旧堤防の斜面と道路には、この春、芽吹いたばかりの小さなオオイタドリが、所狭しに繁茂(はんも)していた。砂利が敷かれて道路になっている部分は幾分マシだったけれど、それでもフキのような大き…

理系コンストラクション【第2号 非破壊レーザーに死角なし③】

3.朝涼の羽衣 「お・と・えー!」 構造力学研究室、修士一年とパネルが貼られた扉は、いつも通り開かれていた。私は勢いよく足を踏み入れ、部屋の奥にいる音絵へ声をかけた。 「なに?」 雀が木の枝に隠れながらさえずるような、そんな声だった。誰にも見…

理系コンストラクション【第2号 非破壊レーザーに死角なし②】

2.サステナブル計画 私は昔から、何でもすぐに破壊してしまう女だった。 中学校の頃、付けられたあだ名がデストロイア。ゴジラ好きの男子が最初にそう呼び始めたことがキッカケだった。なんだよ、ゴジラって。家に帰ってインターネットで調べてみると、二…

理系コンストラクション【第2号 非破壊レーザーに死角なし】

1.葵の憂鬱 後輩の篠田麻衣(しのだまい)から話を聞いて、私は憤慨した。 久々に顔を出したテニスサークルで、休憩に入った時だった。 ストロークとボレーのクロスを、五分二セット。社会インフラ工学科二年生の篠田と本気で打ち合い、ベンチに座りながら首…

理系コンストラクション【第1号 モーメントゼロ④】

↓ 前のお話へ。 www.hinata-ma.com 4.二人の距離 気がついたら、ひと気のない静かな廊下を歩いていた。工学部の研究棟。構造力学の研究室へつま先が向かっていた。修士一年と書かれたパネルが貼ってある扉は、さ迷う誰かを招き入れるようにひっそりと開い…

理系コンストラクション【第1号 モーメントゼロ③】

↓前のお話へ。 www.hinata-ma.com 3.彼女との距離② 先輩Aの証言(琴葉音絵(ことはおとえ)の同級生) 「構造力学研究室の修士一年。今年の三月、社会インフラ工学科を首席で卒業し、大学院へ進学。研究室では、鋼材の座屈(ざくつ)や地震が起こった時の振動…

理系コンストラクション【第1号 モーメントゼロ②】

2.彼女との距離 「お前、あれは流石(さすが)にないわ」 目の前に座る孝太が肩をすくめ、ため息混じりのうんざりした声を上げている。 工学部にある学生レストランは、天井、壁ともにガラス張りで、陽の光を余すことなく取り込んでいた。数多の学生が織りな…

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理系コンストラクション 第1号 モーメントゼロ 第2号 非破壊レーザーに死角なし 第3号 不屈の座屈 理系コンストラクション 「構造こそは土木工学の母国語であり、土木工学というものは構造を通じて思考し自己を表現する絵師である」 舞台は北海道のとある…

理系コンストラクション【第1号 モーメントゼロ】

1.かたい女 ――この先生の研究室には、かたい女がいるらしいぞ。 俺がその噂を聞いたのは、大学の二年生に上がって、自由なキャンパスライフがより楽しさを増してきた時。構造力学というつまらない講義が始まった時と、同時だった。 午前中二コマ目の講義は…