言葉の煙霞

言葉は、無限の可能性を秘めている。

世界が少しでも

世界が少しでも【1.春の前③】

1.春の前③ 去年の夏休み、大学三年生のときだった。わたしはインターンシップとして、ある小さな出版社の職場へ行った。 コピー、印刷、お茶くみ。一昔前のオフィスレディの仕事を揶揄(やゆ)するような事務作業は一切なく、能力があれば、男性も女性も関係…

世界が少しでも(プロット版)

世界が少しでも 南関東中央大学の文学部で社会思想を専攻する南春香は、三年生の秋頃から周りの人たちに流されるまま、就職活動を始める。 就職セミナー、インターンシップ、企業訪問、そして、エントリーシート。 面接に向けて、自己分析を進めていくうちに…

世界が少しでも【1.春の前②】

1.春の前② 乾杯という掛け声とともに、グラスと氷のぶつかる音が軽やかに鳴り響き、わたしは我に返った。季節外れの風鈴があちこちにぶら下がっているようだった。 「就職おめでとう」 学生たちの明るい声が耳の奥へ滑り込んでくる。場の雰囲気とは裏腹に…

世界が少しでも【1.春の前】

1.春の前 「志望動機は、ありません」 わたしは背筋を伸ばし、真っ直ぐ前を向き、迷いのない口調で、凛とした言葉を放った。 さっきまで春の日差しが入り込み明るかった部屋の色彩が、水槽の中に灰色の絵の具を落としたようにじわじわと薄暗くなっていく。…